夢から醒めない翼

映画や舞台の感想など

映画「Sea Opening」感想

 

こんにちは、初めましての人は初めまして。舞台とかの感想を書く専門のアカウントをやっとこさ作りました。一発目のエントリは映画だけどもこれから感想類はここで書いていくつもりです。

 

 

「Sea Opening」、どうにか悪意をやり過ごして、ヒリヒリした社会を生きてる人たち全員に観てほしい映画。思っていたより幻想的な描写に逃げてる感じはしなくて、湿っぽい爽やかさのあるとても好きなタイプの作品だった。以下ネタバレ注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

「物語をつくる。さよならのために。」っていうキャッチコピー、なるほど気持ちの整理をつけるために現実の二次創作をするってことか……
東京での悪意と利己心にまみれたシーン、嫌な汗かいた。個人的に演劇のアングラさをとても不気味だと思っているので、稽古場でのシーンも全体的に怖かった。 それにくらべて清の創作沖縄パートの深夜アニメ展開っぷり……清、実は麻枝准だったりする?(笑)あのストーリー上意味のないプールシーンもエア野球シーンも、現実の都合のいい二次創作だって考えると納得いくんだよな。謎の実験的な加工もそうだけど。

東京での内容のない罵倒の中で、演出家?が「恥ずかしくないのか、人前で恥ずかしいことをしてチヤホヤされて金もらって」みたいなこと言ってて  ムムム……って感じ。演劇のアングラさが怖いのって特にそこだよね……テレビよりいろいろ緩いから(テレビでもあるっちゃあるけども)、”表現”という名目で普段あまり目にしないような暴力とかエロとか、演出家の采配ひとつで役者は演じなきゃいけない。自我を殺しきれる人間じゃないと役者なんてできないよな。すげえよ。

清がゲイなの分かってて優しく拒絶を続ける先輩……後から考えるとキツい。清にとってあれが最も整合性のとれたifなのだとしたらつらいの一言。

そっか、これ現実では先輩と2人きりの逃避行で距離が縮まるなんてことはなくて、だからせめて二次創作では自分の想いに対して意思を示してほしかったのかな。それが拒絶だったとしても。 思いを伝えられるだけで彼の中では満足だったのかな……

相手の死に伴う失恋かあ、、、死はやはりイレギュラーなもので、それが先輩のような若い人なら尚更で。そのせいで、ただの失恋で終わるはずだった?想いが少しややこしくなってしまったのか。もうひとりの清であるあの黒人女性がラストシーンで晴れ晴れしてたのがそういうことだよね。失恋はあくまでも失恋だから次に乗り換えなよ!お前は生きてるんだからさ!みたいな、、、死者に想いを馳せるけど囚われはしない生者たち。正しい……
不快感のない絶妙な生々しさの人間カット、フォトジェニックな映像(ムービージェニック?)、顔面偏差が高すぎるキャスト陣、が合わさってたまに無性におもしろくなってしまう。現実パートの沖縄で5人でウミヘビ汁(?)食べてたとこ、みんな顔きれいだし泣けるのにシュールでちょっと笑ってしまった。あと先輩の100%変顔カットは何だったの?後にも先にもあそこだけでビビった。
出待ち、ダメ、絶対。先輩の出待ちしてた女子高生がラストシーンで他の俳優の出待ちになってたのつらみあるし、序盤で役降ろされてた俳優がマネージャーになってたのもしんどい。諸行無常……
幻想パートの方はやっぱできすぎているというか、エモ……となるシーン多かった。デリヘルの姉ちゃんとのシーン、エモの極みでしょ……軽トラで回収されていく商品としての女性たち。申し訳ないから草むらでやる?と提案する美波(仮)さん。エモい!あとシックスとの追いかけっこね。浜辺で押し倒されたところに先輩が出てくるの、今考えるとやっぱりできすぎている。しかしエモい。

達也、どっちの人格もめちゃ良かった。幻想のヤンキーやんちゃパターンも良かったし、心なし大きい喪服着てけなげに喪主してる達也もウオオとなった(監督の性癖?)(コラ) でもあれ、けなげな方が現実なんだもんな……あまりに痛々しくて、やんちゃしてくれと思ったのかな清も……

東京と沖縄の前科者2人の対比も清が作ったものなら、やっぱ東京でのあの嫌な体験(「ゲイボーイ」て……)は深層心理に刻まれてるのかな、あれはこっちも観ててしんどかった。

”念を供養する”ために自分に好意を持つ人からもらった手紙を破くのと、憧れの人に渡すためには不完全な手紙を破くのと、どう違うんだろうな……清のファンである彼と先輩、本当に正反対の位置にいる。

タイトルの意味について。”もうひとりの清”である黒人女性の恋人のセリフ「海はいつでも開いてる」=いつでも現実は続いてる、ってことか?いつでも開いている海に対してわざわざ開く日を決める=死に区切りをつける、ってことなのかな。どこかのインタビューでは「泳げなかった清が一歩前へ踏み出す」的なこと書かれてたけど、それだけじゃないよね?

そういえばキスシーンあったな。いやストーリーに気を取られて忘れてた。宗教上の理由でキスシーン否定派閥に属してるんだけど、この作品においては確実に必要だったと思う。キスにまつわる画がというより、キスにまつわる精神性が美しかった……

キャストについて。まりおくんの苦悩する繊細な青年役めっちゃハマっててびっくりした。おどおどしてる視線の使い方がうまい…… 早逝した文豪役とか詩人役とかやってほしいなと思った。

まりおくん演じる役の同郷の友人役でサトリュ出すの、キャストファンにしてやったり顔の監督が見えるようだよ……


 

感情と理性を両方フルで使って受け止めるような作品で、とても楽しくストレスレスに鑑賞できた。また上にも書いたけど、独特の湿っぽい爽やかさが心地よかった。「僕らが物語を語るとき、必ず現実はそこにいる……」そうだね。現実あっての物語か、物語あっての現実かは人によって違うだろうけど。清はこの後どうなるのか、なんにせよ、彼が現実と物語を幸せに生きられるよう祈っている。